製粉工程と生産・流通
小麦粉はどの様に製造されているのでしょう
わが国で消費される小麦の約1割は国内産、約9割はアメリカ・カナダ・オーストラリアなどの海外の産地で生産されますが、これらは製粉工場に搬入され、製粉されて小麦粉になります。搬入から包装まで自動化した段階式製粉で生産された高品質の小麦粉は、きびしい品質チェックを経て出荷されており、我が国の製粉企業の設備と技術水準は、世界トップレベルです。
製粉の工程を単純化・一般化すると下図のようになります。
(実際の製粉工程はもっと複雑で、また各製粉工場ごとにさまざまな工夫がされています。)
製粉の各工程をやや詳しく紹介します
★精選
原料小麦に混入している「健全でない小麦」(砕粒、被害粒など)、「きょう雑物」(小麦以外の穀物の粒、雑草の種子、小麦の茎など)、「異物」(石や砂など)を、製粉する前に完全に分離、除去します。
この工程を「精選」といい、健全な小麦粒と他のものの比重の差、形状の違い、大きさの違いなどによって選別する各種の精選機を組み合わせて使用します。
上図ではセパレーターから除石機までが精選の役割を果たしています。
★調質
小麦粒を製粉に最適の状態とするため、2~3段階に分けて水を少しずつ加え(加水)、その都度タンク内でねかせて、胚乳に十分浸透させます。タンク内での保持時間は全部で20~40時間にもなります。
この工程を「調質」といい、調質によって胚乳は軟らかく砕けやすくなり、外皮繊維は水を含むことによって砕けにくくなります。小麦粒が製粉工程に送られたときに、外皮から胚乳が分離しやすくなり、良質の小麦粉を採りやすくなります。
★配合
小麦粉の品質上の特徴、特に、たんぱく質(グルテン)の含有量や性質などは、原料小麦の銘柄や品種を使い分けることによってつくられます。精選と調質が済んだ各種の原料小麦は、これからつくろうとする小麦粉の用途(パン用、めん用、菓子用など)に適合するように計算された割合で配合されます。
★挽砕
ほとんどの製粉工場では、一気に小麦をつぶして粉を採るのではなく、「段階式製粉方法」を採用しています。
第一段階は「破砕工程」です。はじめに「ブレーキロール」で小麦粒を大きく開くように破砕し、外皮を砕かないようにしながら胚乳を粗いまま分離します。
第二段階は「純化工程」です。この粗い状態の胚乳(セモリナ)に混入している外皮の破片を「ピュリファイヤー(純化機)」で風力によって分離し、純化します。ピュリファイヤーは、ふるいの上にセモリナを流しながら下から風を送り込む機械で、セモリナと外皮を比重の差を利用して分離します。分離された外皮は副製品の「ふすま」になります。(「ふすま」は、主に家畜用の飼料として供給されています)
第三段階は「粉砕工程」です。ピュリファイヤーで純化した胚乳だけの部分を「スムースロール」で細かく粉砕し、小麦粉にします。
★ふるい分け
小麦の粉砕は、いく種類かのロール製粉機を用い、上に述べた3段階の工程を組合せて行われますが、この時「ふるい分け」と呼ばれる工程が重要な役割を果たします。
ふるい分けは、破砕工程や粉砕工程でロール製粉機を通った粉砕物を「シフター」と呼ばれる20~30段に積み重ねられたふるいによって数種類の粉度に分ける工程です。次の段階に送られるもの、ピュリファイヤーに送られるもの、そのまま小麦粉として採取するもの、および「ふすま」になるものに分けられます。原料小麦や粉砕途中の中間製品(ストック)を空気流のパイプで一度高所に持ち上げてから、重力を利用して上から下の機械装置へ順次送ることによって、小麦粉を製造するようになっています。
★採り分け工程
ブレーキロールやスムースロールを通ったストックは、その都度ふるいで粒度別に分離がされ、その中から小麦粉(上り粉)が採られます。これらの上り粉は、それぞれ色相、灰分、たんぱく質の含有量、グルテンの性状などが異なりますので、個々の上り粉の成分や性状をみて、希望する品質の小麦粉になるようにそれらを組合せ、最終的には3~4種類の小麦粉をつくります。これを「採(と)り分け」といいます。
★仕上げ工程
このように、数多くの上り粉を混合して小麦粉をつくりますが、混合機でよく混ぜて均一にします。外国では、ここで漂白剤(主成分は過酸化ベンゾイル)を加えて小麦粉中に含まれるカロチノイド系色素を漂白する場合もありますが、日本では自然のままが良いとの考えから、漂白は行っていません。
いろいろな経路から出た外皮の部分はよく混ぜられて副製品の「ふすま」になりますが、一部に特殊なふすまが採り分けられることもあります。
製粉工程での振り分けも品質づくりに重要
上で述べたように、ふるい分け彩り分けられた小麦粉は、用途に応じた特性を持つ小麦粉になるように組合せて、3~4等級の粉にまとめられます。一般的には、比較的色がきれいな小麦粒の中心部に近い部分から順に周辺部に向けて「1等粉」、以下「2等粉」、「3等粉」、「末粉(すえこ)」などに採り分けられ、2等粉以上が食用に使われます。
上位等級の粉は、灰分含有量が少なく、色もきれいですが、下位等級になるほど灰分含有量が多く、色も少しずつくすみが増します。灰分含有量の目安は、1等粉が0.3~0.4%、2等粉が0.5%前後、3等粉が1.0%前後、末粉が2~3%ですが、必ずしも灰分含有量によらないで小麦粉の総合的な品質特性で分類することも多くなっています。特別な品質のものを「特等粉」といったり、1等粉の中でやや灰分が多めのものを「準1等粉」と呼んだりすることがあるので、等級はあくまでも便宜的なものです。
小麦の製粉を担う製粉業の役割と現状
★製粉業の役割
製粉業は、粒のままでは利用できない小麦から小麦粉を製造し、日本人の食生活に欠かせないパン、めん、菓子などの原料として小麦粉加工メーカーあるいは家庭に供給するという重要な役割を果たしています。また、国民の食生活の安定、向上に寄与するため、品質が良い製品を安定供給するという大きな使命も担っています。さらに、小麦粉を製造する過程で発生する「ふすま」は、主に家畜の飼料として飼料メーカーや畜産農家に供給されています。
★製粉企業の現状
わが国において製粉を行企業・工場は72社93工場(令和2年3月末)となっていますが、このうち大手4社の小麦粉の生産量は、全体の79%を占めており、これに年間小麦粉生産量が3万トン以上の企業の生産量を加えた13社ベースでは、全体の91%を占めています。
大手製粉企業は、生産設備の臨海工場への集約化を進めつつ、工場の大規模化、合理化を推進しています。
年間小麦粉生産量3万トン以上の中小製粉企業は、工場の半数が臨海地域に立地し、小麦粉を域内の二次加工メーカーなどに供給しています。
年間小麦粉生産量1千トン以上3万トン未満の中小製粉企業は、主に内陸に位置し、小麦粉を地元のパン、めんなどの加工業者に供給するほか、乾麺などの製造を兼ねるものも多くなっています。
年間小麦粉生産量1千トン未満の中小製粉企業は、輸入小麦を取り扱わない企業が大部分を占め、国内産小麦のみを使用し、めん用や菓子用に供給しています。
★製粉企業のコスト削減や品質・安全性の向上に向けた取組
製粉企業は、生産能力の増強によるコスト削減や品質・安全性の向上に向けた様々な取組を進め需要者や消費者への小麦粉の安定供給に努めています。
① 供給能力の強化等によるコストダウン(製粉工場や原料サイロの増強等の設備投資)
② 資本・業務の提携(製粉企業同士での資本・業務提携等による原料調達規模の拡大や生産の効率化等)
③ 品質・安全性の向上(食品の品質・安全性を確保するための設備やAIB食品安全システムの導入、
IOS認証の取得等)
④ 工場の集約化(海外からの原料調達に有利な臨海工場への集約や臨海工場の生産能力の増強等)
⑤ 海外市場への進出(アジア太平洋地域における買収や工場増設等)
⑥ 地産地消の推進(中小製粉企業の地域とのつながりの強さや独自の立地条件を活かした特色ある
経営の模索や展開)
また、原料小麦の共同買入等を行う協同組織として、全国の中小製粉業者49社で組織された協同組合全国製粉協議会があります。
製粉企業72社(令和2年3月末現在)のうちにはこれら団体に参加する企業のほかに、どちらにも加入していない企業もあります。
製粉企業72社(令和2年3月末現在)のうちにはこれら団体に参加する企業のほかに、どちらにも加入していない企業もあります。
次に小麦粉の種類と用途を見てみましょう
小麦粉は様々な食品の原料として活用されていますが、それぞれの食品に適した小麦粉はどのような小麦から製造されるのか大括りに一覧表に整理してみました。
小麦粉の用途別生産割合
これを我が国の製粉工場から出荷される小麦粉の仕向け先(用途別)として、農林水産省「製粉工場調査」でみると、我が国では、そのほとんどが「業務用」で、パン用が40%、次にめん用が33%、菓子が11%となっています。他方、一般家庭向けの小袋等で販売される「家庭用」は、3%にすぎません。
小麦粉の流通について
小麦は国内需要量の約9割を外国から輸入しています。国内産小麦は民間流通により取引されており、国内産小麦では量的または質的に満たせない需要分について、政府が国家貿易により外国産小麦を計画的に輸入し、実需者に売り渡しています。また小麦粉の流通は、米と少し違った形態をとっています。これは、小麦粉のほとんどが最終商品としてではなく、パン、めんなどの小麦粉加工品の原料として使用されるため、各種の加工工程を経て流通されています。それは主に製粉企業が製粉して小麦粉にし、その小麦粉を原料として二次加工メーカーがパン・麺・菓子などを製造しています。
家庭で直接消費される小麦粉は、ふつう500gか1kg詰めの小さい袋に入れられていますので、「小袋」ともいわれます。これに対して、小麦粉加工業者が業務用として使用する小麦粉は、25kgの紙袋詰めと、大口実需者向けのタンクローリー車によるバラ輸送があり、近年はバラ輸送が多くなっています。同じ小麦粉でも業務用と家庭用では流通形態が異なります。
業務用と家庭用の流通の違い
★業務用(袋詰め、バラ扱い)
業務用の袋詰めは、製粉工場から卸売業者の手を経て、加工業者に渡るのが一般的です。卸売業者には、一次卸と二次卸があります。
一次卸は「特約店」とも呼ばれており、製粉工場でつくられた小麦粉は、特約店経由で販売されます。一次卸には商社も含まれます。大口取引の場合は、二次卸を経由しないで、一次卸から直接加工業者に売られるケースが多いようです。また、卸業者を経由しないで、製粉工場から直接加工業者へ販売される場合もあります。製粉工場から卸売業者を経由して流通するものが約80%、加工業者への直接販売が約8%、残りは自社用および他の製粉会社への販売となっています。
バラで取引される小麦粉は、全体の約5割程度を占めており、途中で卸売業者の倉庫などに保管されることなく、製粉工場から直接加工業者の工場に運ばれます。業務用小麦粉の流通の特徴は、特殊な場合を除いて小売業者が介在しないことです。
★家庭用(小袋)
家庭用の小袋は、製粉工場から卸売業者、小売業者の手を経て消費者に渡るのが普通です。卸業者には、一次卸売業者(小袋の場合は総合食品卸売業者も含まれます)と二次卸売業者があります。
小売り業者の中でもスーパーマーケットなどの量販店に対しては、二次卸売業者を経由しないで、直接一次卸売業者から売られているケースが多くなっています。